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直精、直接精神科診療を行うことの問題点を精神科医が解説します。

Автор: 精神科医 芳賀高浩

Загружено: 2026-03-17

Просмотров: 5577

Описание: はい、こんばんは。精神科医の芳賀高浩です。今日は、いまさらながら「直精問題」について語ってみたいと思います。

「直精」というのは、初期臨床研修を終えたあと、精神科の専門研修を十分に積まずに、そのまま精神科や心療内科の診療に入ることを指します。美容外科でいう「直美」と似た言葉ですね。医学部を卒業して医師免許を取得したあと、日本の医師は通常2年間の初期臨床研修を行います。内科、外科、救急、麻酔科などを一通り回り、医師として最低限必要な基礎を身につけるわけです。そしてこの2年間を終えると、保険診療を行う医療機関の管理者、つまりクリニックの院長や開設者になる資格が得られます。

ここが非常に大きなポイントです。日本の医療は、ほぼ保険診療で成り立っています。自由診療だけで一般のクリニックを成立させるのは、よほど特殊な分野でない限り現実的ではありません。つまり、初期研修を終えた時点で保険診療のクリニックを運営できるようになる。すると、精神科の専門研修を受けずに、そのままメンタルクリニックで働く、あるいは場合によっては自分で開業することすら可能になってしまう。それが「直精」です。

私はこれには大きな問題があると思っています。なぜなら、精神科の専門的な訓練を受けていないのに、いきなり精神科診療を始めてしまうからです。もちろん、今の時代は本もありますし、ネットにも情報があります。YouTubeでも私を含めてさまざまな医師が診療について発信しています。けれども、知識として聞くことと、現場で患者さんを診ることは全く別です。これは本当に大きく違います。

一番怖いのは、自分では「これくらいならできるだろう」と思って診療していても、実は全然違うことをしているのに、自分ではそれに気づけないことです。精神科診療は、外から見えるほど単純ではありません。患者さんの話をただ丁寧に聞いて、薬を出していればいいというものではない。見立て、診断、経過の読み、悪化の兆候の察知、家族背景や発達特性の評価、リスク管理、入院が必要なラインの判断、そういったものを積み重ねて診療していく必要があります。そしてそのズレや危うさは、経験ある上級医からスーパーバイズを受けて初めて気づけることがたくさんあるのです。

私自身、内科を10年やってから精神科に入りました。ですから、患者さんとの接し方や診療の進め方そのものにはある程度慣れていたつもりでした。それでも精神科に入ってみると、指導医の先生から「芳賀君、それはちょっと違うんじゃないか」と指摘されることが少なからずありました。自分ではできているつもりのところほど、実は危うい。これは研修を受ける中で何度も思い知らされたことです。そういう経験を経ずに、いきなりメンタルクリニックで診療するのが直精なのです。

では、なぜ若い医師が直精に流れるのか。理由はかなりはっきりしています。ひとつは、給料がいいからです。専門研修に進めば、年収は500万から600万円程度ということも珍しくありません。一方で、メンタルクリニックにそのまま就職すると、年収2000万円前後を提示されることもある。4倍近い差があるわけです。しかも、専門研修では入院患者さんも診なければならず、重症例も多く、当直もあり、責任も重い。ところが、外来中心のメンタルクリニックなら、比較的軽症に見える患者さんを診ながら、難しいケースは入院施設のある病院に紹介すればよい、という構造になりやすい。楽で、給料が高い。そうなれば、そちらに流れる若い医師が出てくるのは、ある意味当然とも言えます。

もうひとつは、精神科診療がなめられているということです。脳神経外科や心臓血管外科に、専門研修もなくいきなり飛び込もうと思う人はほとんどいないでしょう。怖いからです。けれども、精神科の外来なら何とかなるのではないか、と考えてしまう人がいる。これは精神科が軽く見られている証拠だと思います。たしかに、幻覚妄想が激しい急性期の統合失調症や、今にも命に関わりそうな重症うつ病は、誰が見ても「大変そうだ」と分かります。しかし、外来に一人で来られて、礼儀正しく話せる不安症や不眠症の患者さん、あるいは一見落ち着いて見えるうつ病の患者さんは、初心者からすると「怖くない」「何とか診られそう」と感じてしまう。しかし実際には、そういう患者さんの中にこそ、リスクや落とし穴が潜んでいることがあるのです。

しかも、直精の医師は往々にして感じが良い。これは誤解しないでいただきたいのですが、私は直精の先生がみな横柄だと言いたいわけではありません。むしろ逆で、愛想が良く、話をよく聞いてくれて、患者さんを不快にさせない先生が多いと思います。なぜかと言えば、トラブルを起こしたくないからです。患者さんに厳しいことを言う、薬をむやみに増やさない、生活面の改善を求める、依存や回避に踏み込む、そういうことは波風が立ちます。ところが、患者さんの望む通りに「では薬を増やしましょうか」「無理しなくていいですよ」と言っていれば、とりあえずその場は丸く収まりやすい。勤務時間内を波風立てずに終えたいという意識が強ければ、そういう方向に流れやすいのです。

ですが、それは本当に患者さんのためになる診療でしょうか。私は違うと思います。精神科の熟練した医師、特に精神保健指定医や専門医の資格を持ち、入院診療や医療保護入院、措置入院といった重いケースも経験してきた医師は、悪化の先に何があるのかを知っています。だからこそ、そこに至らないために、今この段階で何を伝えるべきか、何を避けるべきか、どこで介入すべきかを逆算して考えることができる。一方で、そうした経験のない直精の医師は、そのロードマップを持っていないことがある。すると、毎回その場しのぎで患者さんの機嫌を取り、結果的に医療の質が低下していく危険があります。

では、なぜそうした構造が成立してしまうのか。私は、三者のニーズが一致しているからだと思います。ひとつは患者さん側のニーズです。都市部では「今日受診したい」「明日診てもらいたい」という需要が非常に強い。しかし、指定医や専門医のいるクリニックは予約が埋まっていて、新患をすぐに受けられないことも多い。すると、直精の医師でもいいから早く診てほしい、という需要が生まれる。次に若い医師側のニーズ。500万円で厳しい研修をするより、2000万円で外来勤務をしたいという気持ちは理解できてしまう。そして三つ目が経営者側のニーズです。直精の医師であっても外来を回してくれれば利益になる。こうして三者の利害が一致し、直精という仕組みが拡大していくわけです。

ただ、私はこの構造を正当化することはできないと思っています。医療は単なるサービス業ではありません。保険診療で成り立つ以上、その原資の多くは公的なお金です。もちろん医師も生活がありますし、金銭を得ること自体が悪いわけではありません。しかし、お金儲けが第一になってはいけない。患者さんの利益より、自分の収入やクリニックの収益が前面に出てしまった時点で、それは医療としてかなり危ういものになると思います。

さらに問題なのは、精神科にかかる患者さんの中には、医師の資格や研修歴を自分で十分に調べられない方も少なくないことです。精神保健指定医とは何か、専門医とは何か、それが診療にどういう意味を持つのか、知らないまま受診される方も多い。「お医者さんなら大丈夫だろう」「感じのいい先生だから安心だろう」と思ってしまう。しかし、精神科では、感じの良さだけでは足りません。悪化の見立て、リスク管理、薬の使い分け、入院が必要なラインの判断、そういった“見えにくい技術”が非常に大切なのです。

だから私は、直精問題は大きな問題だと思っています。そして、それを変えるためには制度で手当てしていくしかない。今回、精神保健指定医でない医師の通院精神療法について診療報酬上の減算が入る方向になったのは、その第一歩だと考えています。本来であれば、指定医や専門医を持っていない医師が精神科診療を行うことの重みを、もっと制度として厳しく問うてもいいとすら私は思っています。もちろん、資格があるから自動的に良い医師というわけではありません。指定医や専門医は最低限です。けれども、その最低限すら経ずに精神科診療に入ることは、やはり患者さんにとって不利益が大きいと思います。

精神科は、優しそうに話していれば務まる仕事ではありません。患者さんを不快にさせないことが最優先の仕事でもありません。本当に必要なのは、時に波風が立っても、患者さんにとって必要なことを見極めて伝え、悪化を防ぎ、長い目で回復に向かわせる力です。そのためには、やはり研修が必要です。スーパーバイズが必要です。失敗を指摘されながら、それを自分の血肉にしていく時間が必要です。

直精に行きたい若い先生には、500万円でも数年はしっかり修行してほしいと思います。そして、直精の医師を高額で雇って回している経営者の先生方には、目先の利益のために患者さんへ大きなリスクを負わせる構造を、ぜひ見直していただきたいと切に思います。

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