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精神科クリニックに行ったとき、精神科医の頭の中では何が起きているのか?

Автор: 精神科医 芳賀高浩

Загружено: 2025-11-19

Просмотров: 18151

Описание: こんばんは、精神科医の芳賀高浩でございます。

今日は「精神科クリニックに行ったとき、精神科医の頭の中では何が起きているのか?」を、できるだけ赤裸々にお話ししてみようと思います。少し長めにはなりますが、ギュッと短めにまとめてお届けします。

それから、いつもどおり宣伝ですが(笑)、拙著『私の中の希死念慮ちゃん』は第三刷になって発売から3か月ほど経ちました。本当に「死にたいくらいつらい気持ち」を抱えている方には、必ず何か役に立つように書いた本です。本屋さんでの立ち読みでも、Amazonでもメルカリでも、お好きな形で手に取っていただけたら嬉しいです。

① 初診30分で何を考えているか

多くのクリニックや病院では、初診はだいたい30分、再診は5〜10分くらいです。私が責任者をしていた総合病院の外来でも、初診枠は30分で区切っていました。本音を言えば1時間かけたいですが、現実的には無理なので、「この30分で診断の見立てと初期治療方針を組み立てる」「かつ患者さんにある程度満足して帰ってもらう」という二つを同時にやらなければいけません。

ここが、精神科医にとっては毎回けっこうな勝負所です。

② なぜ生い立ちをねほりはほり聞くのか

「どこで生まれて、何人兄弟で、小学校の頃はどんな子どもでした? 学校の成績は?」と、やたら生育歴を聞いてくる医者っていますよね。

あれには二つの意味があります。

1つはシンプルに診断の役に立つ場合。
たとえば、

発達障害っぽさ → 幼稚園〜小学校時代の様子

知的障害の有無 → 小学校の成績や生活ぶり

などから、ある程度推測できます。

もう1つは**「システマチックレビュー」を作るため**。
これは、その患者さんを他の医師にプレゼンテーションしたり、カンファレンスで相談したりするときに、「穴のない病歴」を用意する、という考え方です。

正直、自分一人で診て完結するつもりなら、もっとかいつまんで聞いても診断はできます。でも、
「いつか別の医師の目も借りて、この患者さんをきちんと共有したい」
と思っている医師ほど、生育歴を丁寧に集める傾向があります。

ねほりはほり聞かれて「うっとうしいな」と感じるかもしれませんが、たいていは真面目にあなたを理解しようとしていると思っていただいて大丈夫です。

③ 統合失調症の「屈曲点」と、主観と客観

統合失調症などを考えるときに大事なのが「屈曲点」です。
それまでその人なりに成長してきた人格や生活が、ある時期を境にガクッと折れ曲がるポイントですね。

それまでは普通に学校や仕事に行けていた

ある年齢(18歳、大学入学、就職直後など)を境に、急に行けなくなる、ふるまいが崩れてくる

この「カクッ」と折れたタイミングを探しにいくのが、精神科医の頭の中で起きている作業のひとつです。

同時に、精神科で特徴的なのは
「本人の自覚症状」と「周りの困りごと」がズレやすいこと。

例えば夜中の独語や大声は、本人は「困っていない」ことが多いですが、家族はものすごく困っていますよね。なので私たちは、主訴(本人が困っていること)と同じくらい、周囲が何に困っているかも重視しています。

④ パターン認識で「当たりをつける」

30分しかないので、本当は一から十まで全部聞きたいところを、ある程度パターン認識で「当たり」をつけていきます。

「ぱっと見」で、

うつ病っぽい

統合失調症っぽい

双極症っぽい

発達障害(ASD/ADHD)っぽい

依存症っぽい

強迫症っぽい

などをまず直感的に分類してから、その仮説を裏付けるように病歴を聞いていきます。

たとえば「うつ病っぽい」と感じたら、
完璧主義、自責感の強さ、ストレスとなっている出来事、休職しても改善するかどうか、などを追っていき、「適応障害なのか、本格的なうつ病なのか」を経過で見極めていきます。診断名は最初から確定しているのではなく、「とりあえずの仮説」からスタートして、何ヶ月かかけて微調整していくイメージです。

⑤ 薬を出すかどうかと、ラポールの問題

診断の次に精神科医が考えるのは「薬をどこまで使うか」です。

統合失調症 → 基本的には抗精神病薬が不可欠

中等症以上のうつ病 → 抗うつ薬(SSRIなど)はほぼ必要になることが多い

ただし、抗精神病薬も抗うつ薬も、「飲み始めの使用感」はあまり良くありません。だるい、気持ち悪い、イライラする、眠い…などが先に出ることが多い。

本質的な効果は、セロトニンやドーパミンを調整し、BDNFを増やし、脳のネットワークを少しずつ修復していくことなのですが、その良さは数週間〜数ヶ月たってじわじわ出てきます。

なので、ラポール(信頼関係)がないと使いにくい薬なんです。
「この先生、自分の話をちゃんと聞いてくれたな」「適当に薬だけ出してるわけじゃないな」と思ってもらえて初めて、多少の副作用があっても飲み続けてもらえます。

ですから、正直診断的にはあまり意味がなくても、冒頭の5〜10分は、患者さんが話したいこと(上司のパワハラの細かい内容など)をある程度聞くようにしています。診断よりも、その後の治療をスムーズに進めるための「投資」の時間でもあるわけですね。

⑥ 睡眠薬選びと「外せない一手」

睡眠薬についても、精神科医の頭の中では結構細かい計算をしています。

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾ系(マイスリー、ルネスタなど):効き目がはっきりしていて、患者さんの「効いた実感」が得やすい反面、依存・耐性・離脱のリスクがある。

オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン薬(ベルソムラ、ロゼレム、デエビゴ、クアビピックなど):依存の問題は少ないが、「劇的に効いた!」感は乏しいことも多い。

「この方とはしっかりラポールを積んでいけそうだな」「多少ゆっくり効いても待ってくれそうだな」という場合は、できるだけ非依存性の薬を選びます。

一方で、「ここで一発、ちゃんと眠らせてあげないと他院に流れてドクターショッピングが続きそうだな」「今はとにかく『効いた』体験で信頼をつくらないといけないな」というときは、あえてマイスリーなどベンゾ系に近い薬で勝負することもあります。

どちらが正しいというより、

ラポールの状態

依存リスク

その時点での「勝負どころ」かどうか
を秤にかけて、毎回頭の中で計算している、という感じです。

⑦ 通院間隔=「手綱の長さ」

私の中には「枠組み」や「手綱」というイメージがあります。

週1回通院 → 手綱が短い。少しでも崩れたらすぐに引き戻したい重めの人。ODしそう、薬を個人輸入しそう、アルコールが危険など、脆弱性が高い人。

月1回通院 → ある程度安定していて、1ヶ月離しても大きく崩れないと判断している人。

3ヶ月に1回 → ほぼ薬の継続と福祉的な目的のための通院に近い人。

手綱が長すぎると、気づいた時には「とんでもなく遠くに行ってしまっている」ことがあります。だから、リスクが高い方ほど通院間隔を短く設定する。逆に安定してくれば、徐々に間隔を伸ばしていきます。

⑧ 薬は「早めに固定したい」

神経に作用する薬をあれこれ頻回に変えると、自律神経がいつまでも落ち着かず、かえってしんどくなることがあります。

私のスタンスは、

比較的短期間で、1週間ごとに調整

なるべく早く「この薬、この量、この時間」で固定

その後は、同じものを安定して続けていく

という方向性です。

もちろん医師によって考え方は違い、「とにかくいろんな薬を試してベストを探す」という人もいますが、私は「ある程度のところで腹をくくって固定し、自律神経を落ち着かせる」ことを重視しています。

⑨ 入院を考えるとき

外来だけではどうにもならない場合、入院を勧めることもあります。

処方薬に依存気味で個人輸入やODをやめられない

昼夜逆転が強く、食事も整容もボロボロ

家族が限界に達している

外来ペースでは薬の調整が追いつかない

こういったときは、「寮生活のような場で生活リズムを立て直し、集中的に薬を調整する」必要があります。場合によっては民間救急などを使った強制的な入院が現実的な選択肢になることもあります。

ただ、私は基本的には外来という枠組みの中でなんとかしたいタイプなので、「これはもう待ったなしだな」というとき以外は、外来で粘ることも多いです。

⑩ 診断名はしばしば“動く”

診断名が途中で変わることもあります。

最初うつ病 → 後からはっきり躁状態が出て双極症に

統合失調症だけでなく、強いASD傾向があると分かり、自閉スペクトラム症を併記

パーソナリティの問題を病名として明示した方が支援がしやすいケース

とはいえ、私の感覚では**「診断名は基本1つが軸」**です。
たとえば
「統合失調症で、強いASD傾向と強迫症状を伴う」
という整理の仕方をよくします。

いろいろ併記しすぎると、何を一番大事に治療すべきかがぼやけてしまうからですね。

⑪ 相性問題と主治医変更

人と人なので、「相性」はどうしてもあります。

私の外来でも、感覚的には30〜50人に1人くらい、2〜3%の方は「先生とは合わないので別のところに行きます」とおっしゃいます。これは私だけが悪いというより、どの医師にもありうる数字だと思います。

むしろ問題なのは、

A医師と合わない → B医師に変える

また合わない → C医師に変える
…と主治医を渡り歩いてしまうパターン。

この場合は、一度立ち止まって、
「もしかして自分の人との関わり方にも何かパターンがあるのかもしれない」
と振り返ってみることも、治療の一部になるかもしれません。

もちろん、「主治医を変える=悪」ではありません。合わないと感じたら変えてもよいです。ただ、その選択が何度も続くときには、自分側のクセも一緒に眺めてみると良いのではないか、という提案です。

⑫ どれくらい通うつもりでいるのか

最後に、通院の長さについて。

精神科医としての私の頭の中には、
「短期決戦でさっさと卒業してもらおう」
という発想は、あまりありません。

精神疾患の多くは、糖尿病や高血圧のような「慢性疾患」と似た側面があります。波はあっても、一生付き合っていくことになることも少なくありません。

月1回くらいの通院であれば、
「この人がよりよく生きていくための定期点検」
のような感覚で、長く続けていくのが自然だと私は思っています。

もちろん、状態がすっかり安定して本人も望めば、間隔を空けたり、完全に終了したりすることもあります。でも、基本的なスタンスとしては、
「無理に卒業させることより、その人の人生に寄り添い続けること」
を大事にしています。

今日は、精神科の外来で私が何を考えているのか、ざっくりと1から10までお話ししてみました。

少しでも、受診される側の不安やモヤモヤが軽くなれば嬉しいです。

またお会いしましょう。
精神科医の芳賀高浩でございました。

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